キットをストレートに組み上げて、タミヤのピンクサフを吹いたところ。実はこの前段で赤い成型色に直に手足の白を筆塗りしたんだが、アクリルの隠蔽力の低さに辟易し、一旦全部流してサーフェイサーを吹くことにした。
これは、ビリケン商会のリアルモデルキットシリーズ・ガラモンで、いわゆるソフトビニール製の未組立キットである。湯口を切って瞬着や間着(ねじ込み)すれば、あっという間に素組みができる。
赤い成型色のままではよくわからない造形の妙も、こうやってピンクサフを吹けば一目瞭然だ。
原型製作は、ビリケン商会のソフビキットの多くを手がけているハマハヤオ氏。
ハマ氏の造形は、実物を忠実に再現しているのはもちろん、ソフビとしてリリースされることを想定した各部の味つけにあると思う。どこか丸みがあって、怪獣の荒々しい肌を表現したそれまでのガレージキットなどと一線を画していた。
ピンクサフの上から、ラッカーのタミヤスプレーを吹いた。赤はシャインレッドにブライトオレンジの重ね塗り、白はつや消しホワイト。目と唇、腹部のピンクはピンクサフの上からアクリルのつや消し白を軽く筆塗りしただけ。
こうして大まかに塗り分けるだけでもガラモンらしさが充分にあるのが、造形の素晴らしさをあらわしている。
こうして大まかに塗り分けるだけでもガラモンらしさが充分にあるのが、造形の素晴らしさをあらわしている。
プリンタで出力したコピー用紙を切り抜き、胸のマークとして仮に貼りつけた。このマークはIP上に落ちていたもので、同好の士の熱意に感謝。
この背中のトゲこそがガラモンのガラモンたる部分のひとつ。それぞれの形状、厚みの確かさはもちろん、これによってかたちづくられるフォルムやボリュームが素晴らしい。
目も描き入れた。ガラモンの瞳孔はもっとビビッドな赤なのだが、黒に近過ぎたために瞳孔や瞳の輪郭との差が出ていない。
とはいえ、顔の調子やトゲの陰影など、けっこういい感じかなあと。
とはいえ、顔の調子やトゲの陰影など、けっこういい感じかなあと。
このガラモン、基本色はラッカーで、上に塗ってるのはアクリル。アクリルで塗ったらラッカーのつや消しクリアを被せて、その上にアクリルって繰り返し。そうすることで、下地の色を侵すことなく塗り重ねができるのだ。筆塗りで多色を交えようと思えば、アクリルでそれぞれ塗って、中間色を間に入れ、それ同士をブランディングするってことを行う。こういう表現にはエアブラシのボカシが有効だとされているが、ずっと前から筆塗りでやっているので。
腹部にフラットホワイトを吹いて逆襲版ぽくした。
調子を整えているうちに、顔の赤が強くなってしまった。鼻面や口の周りはもっと黒いのだが、やり過ぎるとコントのドロボーの様になってしまうので悩みどころ。
赤くなってしまった顔にオレンジを足した。同じく唇にもオレンジを被せた。
顔の明暗はこれでいいような気がするが、それと比してトゲ部分が明かる過ぎるなあ。
ガラモンの色彩にこれだ!ってものはないということは下に書くが…
モノクロで製作された放映されたウルトラQ の本編を見てわかることは、2話ともに顔面の方がトゲ部分より明度が高いということ。あまたあるガレージキットの完成品をWeb上で目にすると、これがそうでないものがけっこう含まれている。いや、ガラモンの色に正解はないのだから作者の解釈次第でどっちでもいいのだが。
そんなわけで、上のものはアウトなのだ。
ガラモンの色彩については、元がモノクロフィルムで製作されたテレビ映画であり、当時のカラースチールがほとんど残されていないため、これが決定版というものがない。
ガラモンは、ウルトラQ本編の放映13話と16話(製作順だと16、26番)に登場しているが、その2話で色が変更されていることがわかっている。13話のガラダマ時の色彩を知る手立ては着ぐるみ製作途中に製作者の高山良策氏と写った1枚しかなく、16話のガラモンの逆襲の時にも、その東京タワーのセットで他の怪獣や円谷英二氏、出演者らを交えた撮影会が行われた際のものしかない。13話と16話では、モノクロ画像で見てもリペイントされているのが明らかだ。それ以降のカラー写真は、ウルトラマン8話出演時に嵩上げされ赤い部分が増えたピグモン状態のものとなる。そしてそれ以降は、遊園地や百貨店などの怪獣ショーに引き釣り出され、その状態が大きく劣化していく。ウルトラマン37話で再登場したピグモンは、それまでに子どもたちにトゲを全てむしり取られていて、コレジャナイ感溢れる再生ぷりっだった。
ガラモンの色に話を戻すと、ウルトラQ13話の際には淡いピンク〜オレンジを基本としていて、顔面と腹部はより淡いピンク、手足は骨を模した灰白色で節部が黒、鼻面のみ黒っぽかったとされている。16話では、全体的に赤が強まり、個体番号がつけられた腹部はピンクから灰白色になっている。
この2話で大きく印象がわかるだろう部分は、全身のトーンの変化はもちろん、モノクロ写真でもその差が明らかな鼻から口の周りにかけての部分だ。13話でも鼻は黒いものの鼻下はそうでもないのだが、16話になると鼻から唇の周りにかけて黒く落とされていて、両者で大きく印象が変わる。
今回、当初はガラダマ版でと考えていたが、元になるカラーソースがないこと、識別マークをつけたかったことなどもあり、迷った末に逆襲版に倣ったそれに仕上げることにした。
その迷いがどうだったかは、ここまでの製作経過を見れば明らかだろう。
トゲ部分に黒を乗せたので、当初イメージしていたオレンジガラモンからは遠くなったけど、識別マークもつけたし、ここが落としどころかなあと。
首の下に接合部が残っているが、実際の着ぐるみも頭部が脱げるようになってたし、ソフビはソフビらしさを残すべきと考えているので、パテで接合して馴染ませる等の処置は行っていない。
塗装については以下の手順でおこなった。
- ピンクサフによる下地
- 赤い部分と白い部分にそれぞれラッカー系の缶スプレーをかける
- 目指す色になるように水性アクリルを筆塗り。
- 水性アクリルの上からラッカー系のつや消しクリアコートを塗布
- ラッカー系のコートによって下地塗料を犯さないので、その上から水性アクリルを筆塗り
- 水性アクリル同士を使って、まるで絵画のように各色を馴染ませながら筆塗り
- 仕上げにラッカー系のつや消しクリアコートを塗布
- 3〜7を繰り返す
- 必要に応じて、2のラッカー系缶スプレーを再塗布した。これは、塗膜の強化や、塗り替えする際に元の色を隠ぺいするためや、簡素なぼかしを入れたい時に行った。
目もリペイントして、瞳孔の赤が目立つようにした。目にはクリアを塗布して艶があるように仕上げた。
ソフビというのは、メッキでつくった雌型にポリ塩化ビニルを流し込み加熱して型に近い部分を硬化させ、未硬化の余分な材料を流し捨て、予熱でまだ軟らかいうちにヤットコでつかんでエイヤッ!と引き抜いてつくられる。こう文字で書いても伝わる気がまったくしないが…例えるなら、金属製の手袋があったとして、それから手を引き抜くのは容易ではないだろうってこと…とにかく、複雑な形状のものを成形するのは厄介なのだ。それをこのビリケン商会のガラモンは、細かなトゲのひとつひとつまで間違うことなく成形している。
ソフビは、ブリキのおもちゃと並ぶ戦後の対米輸出品のひとつで、白化しやすいセルロイドにそれに代わって女児用の人形などの素材として用いられていた。そのソフビが一躍するのが、ウルトラQとそれに続くウルトラマンがもたらした怪獣ブームで、このガラモンはもちろん、パゴス、ペギラ、カネゴンといった人気怪獣のソフビが飛ぶように売れた。筆者もこのソフビ怪獣ブームの火中にいて、家にはそれがところ狭しと散乱していた。
ビリケン商会は、当初ハリー・ハウゼンものや金星ガニ、イーマ竜、地球が静止する日のゴートといった海外作品のマイナーアイテム…全世界的にはむしろメジャーだったが…を得意としていた。それがいつからか東宝や円谷といった作品の版権を得て、いまではそちらの方がメインになっている感もある。ゴジラやウルトラマン、バルタン星人といったビリケン商会のラインナップには、ソフビ怪獣ブームの時の少なくない数の子どもが感じただろうコレジャナイ感を払拭したソフビをつくりたいという意図が少なからずあったように感じている。
塗る方も、それが破綻しないように注意深く行った。特に、顔面とトゲ部分、胸元へと続く流れがうまくいくようにとそればかりを考えて作業した。
塗装については、ビリケン商会のソフビ、特にハマハヤオ氏の作品を仕上げるに至って意識したのが、ドライブラシを出来るだけ使わないということだった。
ドライブラシとは、短く切った筆に水気を切った塗料をつけポンポンとスタンプするように塗る技法のことで、塗装面の凹凸の凸の方に明るい色を乗せることで立体感を際立たせることができる。
今回主に使ったのは、ウォッシングとブレンディングという手法。
ブレンディングと書いて字のごとしで、2色以上の色を塗装面に乗せその境界を混ぜて馴染ませることで、絵画などでも当たり前に行われている。2色を馴染ませるために、その塗り分けの境界線に2色を混合した中間色を塗ることもよくある。
ウォッシングは、一度塗った面に別の色を重ねて塗り、乾燥後に上の色を溶剤で溶かすなどしてグラデーションを生み出す手法。同じ性質の塗料を使わずに、下地にラッカー系塗料、上に水性アクリル系塗料というように塗り重ねれば、上のアクリルを部分的に拭きとっても、アクリルの溶剤ではラッカーは侵されることはない。
これらふたつの塗り方を使えば、エアブラシがなくてもぼかし表現が可能だし、エアブラシでは得られない深みのある表現も得られる…というのは、エアブラシが高嶺の花だった厨房時代に身につけた技だったり。